北方ルネサンスの美術

ブリューゲル 農民の結婚式 
ピーテル・ブリューゲル《農民の婚礼》1568年 美術史美術館(ウィーン)

フィレンツェでルネサンスが開花した頃、アルプルより北ドイツネーデルラント(現オランダ・ベルギー)地域でも、ルネサンスが花開きます。

その中心は南部のフランドル地方。フランダースともいわれ、あの「フランダースの犬」の舞台となったところ♪

毛織物工業と貿易で栄え、美術が発展。油絵が誕生します。

この地域は、油絵具の原料となった亜麻仁油の産地でもあり、早くから油絵具が使われ、緻密で写実的な絵が描かれるようになりました。

そして中世以来の近寄りがたい神やキリストではなく、より人間らしい苦悩するキリストや、後光のない使徒写実的に描くようになります。

宗教改革者や人文学者といった人物の肖像画も登場します。

 

時代 15~16世紀
キーワード 油彩技法 肖像画 祭壇画 細密描写

フランドル地方
フランドル地方
Blank map of Europe (with disputed regions).svg: maix¿?derivative work: Alphathon, CC BY-SA 3.0 ,
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Flemish_Community_in_Belgium_and_Europe.svg
フーベルト・ファン・エイク

フーベルト・ファン・エイク(兄)
Hubert van Eyck
1388年頃~1426年9月18日

ヤン・ファン・エイク

ヤン・ファン・エイク(弟)
Jan van Eyck
1395年-1441年7月9日

油絵の技術を確立。超細密画を描き、空気遠近法の原理を始めて使ったと言われます。

《ヘントの祭壇画》

ヘントの祭壇画

 1432年 油彩・板
 シント・バーフ大聖堂(ヘント)

色彩を抑えた平日礼拝面(閉じた状態)と、豪華絢爛な日曜礼拝面(開いた状態)からなる祭壇画。

兄のフ―ベルトが描き始め、兄の死後、弟のヤンが完成させたと伝えられています。

油彩による細密描写です。

ヘント祭壇画 ファン・エイク
聖母マリア
ヘント祭壇画 ファン・エイク
父なる神
ヘントの祭壇画 ヨハネ
福音書記者ヨハネ
ファン・エイク兄弟 神秘の仔羊の礼拝
仔羊の礼拝
ヘント祭壇画 合唱の天使
合唱の天使
ヘントの祭壇画 生命の泉
生命の泉
ヘントの祭壇画

たたんだ状態の外翼
(平日礼拝面)

色彩が抑えられています。

 

ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻》

ヤン・ファン・エイク アルノルフィーニ夫妻

1434年  油彩・板  82.2x60㎝
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

作品の詳細はこちらを👇

ヤン・ファン・エイク《ファン・デル・パーレの聖母子》

ヤン・ファン・エイク ファン・デル・パーレの聖母子

1434-36年 油彩・板
141x176.5㎝ グルーニング美術館(ベルギー/ブルッヘ)

ウェイデン

ウェイデン

ロヒール・ファン・デル・ウェイデン
Rogier van der Weyden
1399/1400年-1464年6月18日
初期フランドルの画家

祭壇画と肖像画
市民生活の現実感を宗教画に取り入れて表現しました。

《十字架降下》

ウェイデン 十字架降下

 1443年以前 油彩・板
 220×262㎝ プラド美術館(マドリード)

息絶えたイエスが十字架から降ろされる場面。
イエスと同じポーズで崩れ落ちているのはマリア。

すべての登場人物から、苦悩悲しみを感じさせる精神性ある人物表現です。

ウェイデン 十字架降下
ウェイデン 十字架降下

涙が……すごいですね~!

《聖母子を描く聖ルカ》

聖母を描く聖ルカ ファン・デル・ウェイデン

1435-40年頃 油彩・テンペラ・板
137.5x110.8㎝ ボストン美術館

ヒエロニムス・ボス

ヒエロニムス・ボス

ヒエロニムス・ボス
Hieronymus Bosch
1450年頃-1516年8月9日

宗教的な主題に、特殊で謎めいた表現を組み合わせて、幻想的な世界を描いています。

《快楽の園》

ボス 快楽の園

1503-1504年 油彩・板
220x389㎝ 
プラド美術館(マドリード)

三連の祭壇画。

快楽に溺れる愚かな人間の謎めいた行為を描いた「快楽の園」を中心にして、左翼には「エデンの園」、右翼に「地獄」が対照的に描かれています。

ボス 快楽の園 中央 詳細
ボス 快楽の園 地獄
ボス 快楽の園 アダムとイブ
ボス 快楽の園 天地創造
外翼 天地創造

外翼には旧約聖書「創世記」の天地創造の場面が描かれています。

作品の詳細はこちらを👇

《放蕩息子》

ボス 放蕩息子

1480-90年頃 油彩・板
71.5x71.5㎝ ボイマンス・ヴァン・べーニンゲン美術館(オランダ) 

グリューネヴァルト

マティアス・グリューネヴァルト

Matthias Grünewald
1470/75年頃~1528年8月31日

ゴシック末期に活躍。
人間の苦悩を劇的に表現しました。

《イーゼンハイム祭壇画》

第1面 平日礼拝面《キリストの磔刑》 

グリューネヴァルト キリストの磔刑

1512-15年 油彩・板
269x307㎝ ウンターリンデン美術館(フランス)

手足はねじ曲がり、体中に傷… 

この祭壇画は、当時流行していた皮膚病の施療院だった修道院のために描かれたもの。

鮮やかな色彩と生々しい表現。キリストの苦しみを描くことによって、患者の苦しみを和らげようとしました。

キリスト教美術史上の最高傑作といわれる作品です。

matthias-grünewald-isenheim-altarpiece-detail

第2面 日曜礼拝面 (第1面の中央扉を開くと…)
受胎告知》《キリスト降誕》《キリストの復活》

グリューネヴァルト キリストの磔刑

第3面 祝日礼拝面
《聖アントニウスの隠修士パウルス訪問》《聖アントニウスの誘惑》
聖アウグスティヌス・聖アントニウス・聖ヒエロニムスの立像

グリューネヴァルト キリストの磔刑 
グリューネヴァルト キリストの磔刑
vincent desjardins, CC BY 2.0 ,
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Chapel_of_Unterlinden_Museum_with_Isenheim_altarpiece.jpg

クラーナハ

ルーカス・クラーナハ(父)
Lucas Cranach the Elder
1472年10月4日~1553年10月16日
ドイツ 

宗教画から世俗的なものまで幅広く描き、肖像画や裸体画も数多く手掛けています。
息子も同じ名前です。

《エジプトへの逃避途上の休息》

クラーナハ エジプトへの逃避途上の休息

1538年 油彩・板 
70.7x53㎝ 
ベルリン美術館

ユダヤの王ヘロデが企てたキリストの殺害から逃れるため、ベツレヘムからエジプトへと逃避した場面。

《マルティン・ルターの肖像》 

マルティン・ルター

1529年 油彩・板 
73x54㎝ 
ウフィツィ美術館(フィレンツェ)

デューラー

アルブレヒト・デューラー
Albrecht Dürer
1471年5月21日~1528年4月6日
ドイツ

ヴェネツィアでイタリア・ルネサンスの美術を学び、理想的な人体表現と、合理的な空間表現をドイツ絵画に取り入れます。
版画技術

《四人の使徒》

デューラー 四人の使徒

1526年 油彩・板 
212.8x76.2㎝ 
アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)

デューラー晩年の代表作。

当時 人間は4つの気質(四体液質)に分類されるという考えがあり、それをもとに、4人の聖人を描き分けています。

 ヨハネ  活発で外交的な多血質
 ペトロ  落ち着いた粘液質
 マルコ  情熱的な胆汁質
 パウロ  まじめな憂鬱質

《アダムとエヴァ》

デューラー アダムとエヴァ

1507年  プラド美術館(マドリード)

詳細はこちらを👇

《メランコリアⅠ》 

albrecht-dürer-melencolia1

1514年 銅版画 24x18.8㎝

ホルバイン

ハンス・ホルバイン
Hans Holbein the Younger
1497/98年~1543年
ドイツ

人物描写の優れた肖像画を残しています。

《大使たち》

ホルバイン 大使たち

1533年 油彩・板 
207x209.5㎝ ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Holbein_Ambassadors_anamorphosis.jpg

聖ミカエル騎士団のジャン・ド・ダントヴィル大使と、ラヴールの司教ジョルジュ・ド・セルヴの肖像画

足元の不思議な形は、引き伸ばされた骸骨アナモルフォーシスの技法をつかった作品で、画面に近づき右上から見ると、その姿が現れます。「死を忘れるな」というメッセージが込められています。

ペストの流行によって、人々は「死」身近なものと捉えるようになりました。

アナモルフォーシスは「Ana-morphosis」
ギリシア語で再構成の意味。
対象を極端にゆがめたり、引き伸ばしたりして描く技法。角度を変えることで正常な形が見えます。

ホルバイン アナモルフォーシス

ブリューゲル

ピーテル・ブリューゲル

ピーテル・ブリューゲル
Pieter Bruegel the Elder
1525/30年頃~1569年9月9日)

16世紀半ば頃に活躍。農民の風俗をユーモラスに表し、寓意画も得意としました。

《雪中の狩人》

1565年 油彩・板
117x162㎝ ウィーン
美術史美術館

宗教画が主流だった時代、ブリューゲルは、風景画風俗画を合わせた絵画を生み出します。

1年の、それぞれの月の行事や風俗を描いたシリーズ絵を月暦画(げつれきが)といいますが、この作品はその6枚の連作のひとつ。12月と1月の風景を描いているといわれています。

16世紀当時の神のいない、庶民の生活自然を描いています。

《ネーデルラントの諺》

ブリューゲル ネーデルラントの諺

1559年 油彩・板
117×163㎝ ベルリン絵画館(ドイツ)

《農民の婚宴》

ブリューゲル 農民の結婚式 

1568年  油彩・板
114×164㎝ 美術史美術館(ウィーン)

[参考図書]
改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2019
続 西洋・日本美術史の基本 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2018
増補新装 カラー版 西洋美術史 高階秀爾監修 株式会社美術出版社 2021
カラー版 1時間でわかる西洋美術史 (宝島社新書) 宮下規久朗著  宝島社 2018
この絵、誰の絵? 100の名作で西洋・日本美術入門 佐藤晃子著 株式会社美術出版社 2019
366日の西洋美術 (366日の教養シリーズ) 瀧澤秀保監修 株式会社三才ブックス 2019
芸術教養シリーズ6 盛期ルネサンスから十九世紀末まで 西洋の芸術史 造形篇II 水野千依編 株式会社幻冬舎 2013

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