ロマン主義(フランス)

ドラクロワ 民衆を導く自由の女神
ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》

美の基準を、ギリシア美術とした新古典主義に対抗するように台頭してきたのが、ロマン主義です。

神話や歴史を主題とするのではなく、当時の事件文学異国趣味などをテーマに、個性や感情を重視しました。
また自然や神秘的なものなど、様々な美を受容し、より自由な表現を求めます。

これは19世紀の芸術の大きな流れとなっていきます。
それぞれの国の事件や風土に関わる美術が生まれ、地域によって異なる傾向がみられます。

 

フランスでは王政復古期に台頭した流れで、画家たちはブルジョワ社会体制への反感から、それまで取り扱うことのなかった衝撃的な題材を、激情的に描きました。

その先陣を切ったのが、テオドール・ジェリコーです。そして若くして亡くなったジェリコーを引き継ぐ形で、フランスのロマン主義を大成させたのが、ドラクロワです。

 

 特徴
・ドラマチックな表現
・躍動感
・感覚を重視
・異国への憧れ オリエンタリズム

ジェリコー オラース・ヴェルネ画

ジャン・ルイ・テオドール・ジェリコー
Théodore Géricault
1791年9月26日~1824年1月23日
フランス

ロマン派の先駆者

《メデュース号の筏》

ジェリコー メデュース号の筏

1819年 油彩・キャンヴァス
491x716 ルーブル美術館(パリ)

荒れた海を筏で漂流する遭難者たちが、救助船に向かって必死に助けを求めています。
これは、1816年の政府が隠した海難事故を描いたもの。

アフリカ沖で座礁したフランス軍艦メデュース号。
艦長ら幹部は早々と逃げ出し、150人の兵士や船員たちが取り残されます…
救出までの13日間に、喧嘩や殺し合いが起こり、生き残ったのはわずか15人…

ジェリコーは生存者に取材し、死体安置所で死体をデッサンし、死に直面した極限状況を生々しく描いています。

《エプソンのダービー》

ジェリコー エプソンのダービー

1821年 油彩・キャンヴァス
92x122.5㎝ ルーブル美術館(パリ)

19世紀後半、連続写真によって、馬の脚の動きが違うと物議をかもしますが、ロダンは芸術的真理からジェリコーを評価しています。

馬好きだったジェリコーは、落馬によって脊髄を損傷し寝たきりとなり、32歳という若さで亡くなっています。

ドラクロワ

ドラクロワ

フェルディナン・ヴィクトール・ウジェーヌ・ドラクロワ
Jacques-Louis David
1798年8月30日~1863年12月29日
フランスの国民的画家
ロマン主義の大家

強い色彩で人間の激しい感情をドラマチックに表現

《キオス島の虐殺》

ドラクロワ キオス島の虐殺

1823-24年 油彩・キャンヴァス
345×419㎝ ルーブル美術館(パリ)

ギリシャ独立戦争を封じるために行われた、オスマン帝国による虐殺を描いた作品です。
こちらも取材の上描かれています。
サロン出品時には「絵画の虐殺である」と痛烈な批判を浴びました。

《サルダナパールの死》

ドラクロワ サルダナバナールの死

1827年 油彩・キャンヴァス
392×496㎝ ルーブル美術館(パリ)

イギリスの詩人ジョージ・バイロンの戯曲を主題とした作品。
敵に宮殿を包囲された古代アッシリア王が寵姫たちを殺害させている場面です。
ベッドの上で悠然と眺めている王がいますね……

《民衆を導く自由の女神》

ドラクロワ 民衆を導く自由の女神

1830年 油彩・キャンヴァス
260×325㎝ ルーブル美術(パリ) 

こちらは1830年の7月革命の様子を描いたもの。
この革命によって、今に続くフランス国家が誕生します。

女神フランスを擬人化したシンボル
三色旗を掲げた自由の女神と共に突き進むパリ市民の姿です。
三色旗が示すのは、自由平等博愛

絵画を政治や思想の道具にすることを嫌ったドラクロワでしたが、この革命を目の当たりにして、激情の赴くままに描いたそう。

《アルジェの女たち》

ドラクロワ アルジェの女たち

1834年 ルーブル美術館 

《民衆を導く自由の女神》を描いた4年後の作品です!

ドラクロワは1832年、フランス政府のモロッコ使節団に、随行画家として同行します。
6か月に及ぶ旅の帰途、立ち寄ったアルジェの町で、イスラム社会のハレムを見る機会を得ます。

女性たちの美しい衣装や装飾品、水タバコやじゅうたんなどの調度品、室内の様子も詳細に描かれています。

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ヨーロッパにはない色彩官能性ですね✨

北アフリカの強烈な太陽と、豊かな色彩の影響を受けたこの旅行を境に、ドロクロワは色使いも明るく多彩になっていったようです。

音楽の世界でも、豊かな感情を表す傾向が見られます。
ショパンは、パリでドラクロワたちと交流し、情熱的なピアノ曲を数多く残し「ピアノの詩人」と呼ばれました♫

[参考図書]
改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2019
続 西洋・日本美術史の基本 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2018
増補新装 カラー版 西洋美術史 高階秀爾監修 株式会社美術出版社 2021
カラー版 1時間でわかる西洋美術史 (宝島社新書) 宮下規久朗著  宝島社 2018
この絵、誰の絵? 100の名作で西洋・日本美術入門 佐藤晃子著 株式会社美術出版社 2019
366日の西洋美術 (366日の教養シリーズ) 瀧澤秀保監修 株式会社三才ブックス 2019
芸術教養シリーズ6 盛期ルネサンスから十九世紀末まで 西洋の芸術史 造形篇II 水野千依編 株式会社幻冬舎 2013

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