
◆ロココ美術の特徴
・18世紀の初頭からフランス革命のころまで(1710年代~60年代にかけて)
・フランスを中心とした欧州各地に広まった美術の総称
・「ロココ」の由来は装飾用語の「ロカイユ」(16世紀の庭園の人工洞窟にはめ込まれた小石や貝殻の装飾を表す言葉)
・17世紀の厳格な古典主義に反発する流れ
・貴族や裕福な市民の館が舞台
・甘く優雅な雰囲気、快楽
・軽やかで開放的、親しみやすさ
・市民の日常を主題とした画家も登場
・王立アカデミーの設立
・金工、陶磁器など工芸装飾が花開く
・優美さと洗練、室内装飾が円熟期を迎える
◆絵画/主な作家
ヴァトー(フランス) 雅宴画(フェート・ギャラント)の創始者
プーシェ(フランス) 神話画、宮廷肖像画
フラゴナール(フランス) 雅宴画を発展、ロココ後期の代表
ラ・トゥール(フランス) 肖像画、パステル画
シャルダン(フランス) 中産階級の日常を主題
ホガース(イギリス) 風刺に富んだ庶民の暮らしを描く
レノルズ(イギリス) アカデミー初代院長、肖像画
ゲインズバラ(イギリス) イギリス風景画興隆の先駆者
ティエーポロ(イタリア) ヴェネツィア派最後の巨匠、天井画
カナレット(イタリア) 都市景観画(ヴェドゥータ)
ロンギ(イタリア) 生き生きとした市民の生活を描く
ピラネージ(イタリア) 古代ローマ遺跡の空想的な建築表現、版画
ゴヤ(スペイン) スペインの巨匠 晩年はロマン主義
◆工芸/主な作家・工芸品
クレサン(フランス) 家具師、彫刻・金工家
セーヴル(フランス) ポンパドゥール・ピンクや王の青、宮廷趣味
マイセン(ドイツ) 花卉文様や神話主題、東洋の影響
◆建築/主な建築家
ボフラン(フランス) 楕円形の間
ガブリエル(フランス) プティ・トリアノン
ミック(フランス) 愛の神殿
ツィンマーマン兄弟(ドイツ) ヴィース巡礼教会
ルイ14世が亡くなった後のフランスで、それまでの厳格な古典主義に反発するように、ロココ美術が誕生します。
曲線と軽やかな色彩、装飾的で優美な貴族主義の様式で、男女の愛や官能をテーマにした作品が描かれるようになりました。
一方、ごく普通の市民の生活や、日常の暮らしも描かれました。
ヴァトー

《シテール島の巡礼》
1717年 油彩・キャンヴァス
129x194㎝ ルーブル美術館蔵(パリ)

「雅宴画」(がえんが/男女が戸外で楽しむ愛の宴の情景で、上流社会の風俗や貴族趣味を反映したもの)という新たなジャンルの画家として、アカデミーに入会を認められた作品です。
シテール島にやってきた若い男女が、ヴィーナス像への巡礼を終えて、帰路につくまでの様子が描かれています。
貴族の娯楽を、幻想的で豊かな色彩で描いた、ヴァトーの中期の代表作。
シテール島は、地中海のキティラ島のこと。フランス語で「シテール」と呼ばれます。愛の女神ウェヌス(ヴィーナス)が流れ着いた場所とされる愛の聖地。幸福な恋愛を願う恋人たちの理想郷として、文学や美術で取り上げられました。

ヴァトーの他の代表作はこちらを👇
ブーシェ

《ポンパドゥール夫人》
1756年 油彩・キャンヴァス
212x164㎝ アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)
フラゴナール

《シーソー》
1750-52年 油彩・キャンヴァス
120×95 cm ティッセン=ボルネミッサ美術館(マドリード)

《逢引き》
1771-72年頃 油彩・キャンヴァス
フリック・コレクション(ニューヨーク)
ラ・トゥール

《ポンパドゥール夫人の肖像》
1748-55年頃 パステル
175x128㎝ ルーブル美術館(パリ)
シャルダン

《食前の祈り》
1740年 油彩・キャンヴァス
49.5x38.5㎝ ルーブル美術館(パリ)

《銅製の給水器》
1733年 油彩・キャンヴァス
28.5x23㎝ ルーブル美術館(パリ)

《ラケットを持つ少女》
1737年 油彩・キャンヴァス
81x65㎝ 個人蔵

《銀のゴブレットとりんご》
1768年頃 油彩・キャンヴァス
33x41㎝ ルーブル美術館(パリ)
18世紀に入ると、経済力を高めた市民階級の美術愛好家が増え、ロココ時代ではありながら、静物画や風俗画の需要が高まります。それに答えた代表的な画家がシャルダンでした。
ロココ/絵画(イギリス)
外国人画家が活躍していたイギリス美術界でしたが、ホガースの登場によって、イギリス人によるイギリス絵画が台頭し始めます。
1768年にはロイヤル・アカデミーが創設され、美術界は活気にあふれます。
雅宴画がブームだったフランスと違い、アカデミーは堅実で現実性を重視。様々な分野の画家たちが活躍し、絵画の質が向上しました。風景画や肖像画が人気となります。
ホガース
《当世風結婚》は、落ちぶれた貴族の息子と、裕福な市民の娘の政略結婚をテーマにした6枚の連作。婚約に始まり、やがてうまくいかず、2人とも死んでしまうという悲しい結末です。

1743年頃 油彩・キャンヴァス
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
☆花婿の父は血筋をアピール。花嫁の父は契約書をチェックしています。左端の花嫁と花婿はお互い知らんぷり。

☆朝帰りの夫と、掛けトランプに明け暮れた妻。
しらけた夫婦に執事もあきれ顔。


☆浮気夫は娼婦と共にヤブ医者へ。2人とも梅毒に…



☆妻の裏切りの場に踏み込んだ夫。
愛人は夫を刺して窓から逃走…

☆愛人は絞首刑。
それを新聞でしった妻は服毒自殺…
当時は、階級を超えて政略結婚も行われるようになり、貴族の家は財産的な援助を、市民の家は家柄をそれぞれ相手に求めました。
市民の生活を、風刺に富んだ芝居の舞台のように描きました。
レノルズ

《悲劇のミューズに扮するサラ・シドンズ》
1783-84年 油彩・キャンヴァス
239.4x147.6㎝
ハンティントン・ライブラリー(サン・マリノ)
☆女優 サラ・シドンズ(Sarah Siddons/1755~1831)が、悲劇の女神を演じた姿。

《マスター・ヘア》
1788-89年 油彩・キャンヴァス
76x62㎝ ルーブル美術館(パリ)
ゲインズバラ

《朝の散歩》
1785年 油彩・キャンヴァス
236.2x179.1㎝ ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
若い男女が手を取り合って散策する場面で、ゲインズバラ、晩年の傑作のひとつです。軽やかな衣装のひだや光沢、風にそよぐ木々の表情などを、繊細なタッチで描き出しています。

《アンドリューズ夫妻》
1750年 油彩・キャンヴァス
69.8x119.4㎝ ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

《シドンズ夫人》
1785年 油彩・キャンヴァス
126x99.5㎝ ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
ロココ/絵画(イタリア)
18世紀のイタリア絵画の中心地はヴィネツィアです。
室内装飾では、バロックの重厚な色彩や重量感が取り去られ、自由な表現となります。市民の生活や、都市景観画も描かれました。
イギリスからは富裕階級の子弟が、古典的教養教育の総仕上げとしてヨーロッパを旅行し(グランド・ツアー)、最終目的地のローマで、古代の文化を学びました。彼らは旅先で様々な美術作品を収集しました。(イギリス絵画の質の向上に大きな影響をあたえています。)
ティエーポロ

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:PMa_E_137_Madrid.jpg
《スペインの栄光》
1762-66年 油彩・キャンヴァス
マドリード王宮

《惑星と大陸の寓意》
1752年 油彩・キャンヴァス
メトロポリタン美術館(アメリカ)

《オリュンポス山と四大陸の寓意》
ヴェルツブルク司教館(ドイツ)
バロックの重厚な室内装飾に学びながら、色彩を白を基調とした明るいものに変え、重量感を取り除いた人体表現です。歴史にとらわれない自由な画面をつくりだしています。
カナレット

《サン・マルコ広場とその周辺》
1730-40年頃 油彩・キャンヴァス
アルテ・ピナコテーク(ドイツ)

《サン・マルコの船溜り》
1735年頃 油彩・キャンヴァス
ボストン美術館(アメリカ)

《北西の角から大聖堂を望むサン・マルコ広場》
1756年頃 油彩・キャンヴァス
46.5×38㎝ ナショナルギャラリー(ロンドン)
まるで写真のように描かれた都市景観画(ヴェドゥータ)は、18世紀に盛んに描かれました。17世紀の理想的風景画とは違い、都市名や場所も特定することができるものです。
ロンギ

《薬剤師》
1752年 油彩・キャンヴァス
60×48㎝ カ・レッツォーニコ(ヴェネツィア)

《犀》
1751年 油彩・キャンヴァス
62×50㎝ カ・レッツォーニコ(ヴェネツィア)
ピラネージ

《コロッセウム》(『ローマの景観集』より)
1757年 油彩・キャンヴァス
236.2x179.1㎝ ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

761年 版画
☆想像上の牢獄で、16枚シリーズの版画。
古代遺跡の発掘が盛んだった時代でもあり、ローマの古代遺跡をモチーフに、その広大さを強調して版画にしています。
ロココ/絵画(スペイン)
スペインの宮廷で栄えたロココ文化は、ゴヤの初期の作品に見られます。
ゴヤというとロマン主義の作家として知られますが、初期にロココ風の作風で評価されて宮廷画家となっています。ゴヤによる王室のためのタペストリーの下絵は、貴族の遊楽の情景を表し「スペイン風の雅宴」と呼ばれています。
ゴヤ

《着衣のマハ》
1795-1980年頃 油彩・キャンヴァス
プラド美術館(マドリード)

《カルロス4世の家族》
1800年 油彩・キャンヴァス
280×336㎝ プラド美術館(マドリード)
☆国王一家の集団肖像画。
ゴヤは40代の時、病で聴覚を失い、内向的な傾向を強めていきます。
独立戦争を機に描かれた作品では、不安な心情を描き、晩年に暮らした「聾者(ろうしゃ)の家」の壁には、内面性が強く表れた14枚の連作「黒い絵」を描いています。

《マドリード、1808年5月3日》1814年 油彩・キャンヴァス
266×345㎝ プラド美術館(マドリード)
☆フランス軍によるスペイン民衆の虐殺の様子。戦争の不条理や巻き込まれた人々の苦しみを描いています。

《我が子を食らうサトゥルヌス》
1819-1823年 油彩・キャンヴァス
146×83㎝ プラド美術館(マドリード)

《魔女の夜宴》
1821-1823年 油彩・キャンヴァス
140.5×435.7㎝ プラド美術館(マドリード)
ロココからは想像もつかない変化ですね…
ロココ/工芸
・工芸史の黄金期
・曲線的、繊細、軽やか、小ぶりなもの
・インテリアや家具、食器など、貴族の日用品に反映される
・金工、服飾、陶器の分野で質の高い作品が生まれる
・やがて簡素な直線様式へ
シャルル・クレサン

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Charles_Cressent,_Chest_of_drawers,_c._1730_at_Waddesdon_Manor.jpg
《箪笥》
1730年頃 ワデスドンマナー(イギリス)

1735年頃 カルースト・グルベンキアン美術館(リスボン)
セーヴル

1757-58年

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:S%C3%A8vres_porcelain_manufactory,_Fan-shaped_jardiniere_and_stand,_1758_at_Waddesdon_Manor.jpg
1758年

1760年頃

1778-82年
👇こちらのサイトで、セーヴルの船形ポプリ壺について、詳しく紹介されています。
マイセン

1725年

1724-25年

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Meissen_hard_porcelain_teapots_circa_1720_decorated_in_the_Netherlands_circa_1735.jpg
1735年頃

1740年
ロココ/建築
・市中の館(ホテル)や市外の小離宮が建てられる
・各室も居住性を重視した小規模なものに
・優雅で繊細、洗練された室内装飾
・芸術と生活の融合
・装飾で区切りをなくした壁と天井
・白地に金モールの多用、曲線
・愛の物語、キューピッドの浮彫
・大きな窓や鏡、シャンデリア
・象嵌や漆塗り、寄木細工など、技術の組み合わせ
ボフラン

ホテル・ド・スービーズ(現フランス国立公文書館)

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Salon_Oval_de_la_Princesse_of_the_H%C3%B4tel_de_Soubise_(Paris).jpg
楕円形の間
フランス屈指の名門スービーズ家の邸宅で、ボフランによって改築されました。
2階にある楕円形の間は、白地の壁に金色のロカイユ装飾、天井にかけて曲面で構成されています。植物などをモチーフにした縁取りや、キューピッドの浮彫があしらわれ、ロココ室内装飾の代表です。
フランス革命後は公文書館として利用され、現在も「フランス国立公文書館」として活用されています。
マリー・アントワネットの遺書や、ジャンヌ・ダルクの手紙など、フランス史上の重要人物に関する多くの古文書が展示されています。
ガブリエル

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Vue_a%C3%A9rienne_du_domaine_de_Versailles_par_ToucanWings_-_Creative_Commons_By_Sa_3.0_-_055.jpg
プチ・トリアノン 1762-68年

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Petit_Trianon_-_Fa%C3%A7ade_ouest_(2).jpg
西側ファサード

ダイニングルーム

サロン
プチ・トリアノンは、ヴェルサイユ宮殿の庭園にある離宮のひとつです。ルイ15世の愛妾ポンパドゥール夫人の為に建てられたもので(夫人は完成前に亡くなっています)、後にルイ16世が、王妃マリーアントワネットに与えた離宮です。
シンプルな四角形の建物で、4面のファサード(正面)を持ちます。
世紀後半、ギリシア・ローマ美術への関心が高まりから(新古典派様式への移行期)、古代風の柱や、直線のデザインもみられます。
ミック

愛の神殿
1778年 ヴェルサイユ宮小トリアノン庭園アモー内

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Temple_de_l%27Amour_de_Versailles_001.JPG
マリー・アントワネットが、ヴェルサイユ宮殿内に造らせた小さな神殿です。
田園風景の中に点在する建物や装飾が特徴的な「アモー」と呼ばれるエリアに位置しています。
こちらも古典主義様式と結びついた、ロココ後期のものです。
ツィンマーマン兄弟

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Santuario_Wieskirche_-_panoramio_retusche.jpg
ヴィース巡礼教会(ドイツ)
1745-54年

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Wieskirche_18.jpg

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Wieskirche_01.jpg
このヴィース巡礼教会は、外観はシンプルですが、内部は「天から降ってきた宝石」と称賛された豪華な装飾です。
ロココ様式の最高傑作とされ、ユネスコの世界遺産にも登録されています。
【参考図書】
改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2019
続 西洋・日本美術史の基本 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2018
増補新装 カラー版 西洋美術史 高階秀爾監修 株式会社美術出版社 2021
カラー版 1時間でわかる西洋美術史 (宝島社新書) 宮下規久朗著 宝島社 2018
この絵、誰の絵? 100の名作で西洋・日本美術入門 佐藤晃子著 株式会社美術出版社 2019
366日の西洋美術 (366日の教養シリーズ) 瀧澤秀保監修 株式会社三才ブックス 2019
芸術教養シリーズ6 盛期ルネサンスから十九世紀末まで 西洋の芸術史 造形篇II 水野千依編 株式会社幻冬舎 2013