
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Double-Headed_Eagle_Stupa_at_Sirkap_08.jpg
ガンダーラ美術
ガンダーラ美術は、イラン系遊牧民のクシャン族によるクシャーナ朝(1~3世紀)の統治下において、ガンダーラ地方を中心に栄えた仏教美術。1世紀後半の、カニシカ王の統治下で最も栄えました。
「ガンダーラ」は、現在のパキスタンの北西部、ペシャーワル平野を中心とする地域に栄えた古代王国の名前です。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:KushanEmpireMap.jpg
この地方は、インド亜大陸への入口として、異民族の侵入が絶えない地であったため、数々の王朝の交代に伴ってさまざまな文化が流入。仏教美術にも、外来文化の多様な影響が見られます。
仏教美術が本格化した紀元前2世紀においては、ストゥーパ(仏塔)が礼拝の対象で、仏像はまだつくられていません。
仏像がつくられるようになったのは、1世紀頃と考えられています。
このガンダーラで仏教美術史上初めて、釈迦の姿を表現する「仏像」がつくられました。
1世紀頃につくられた仏像《仏陀立》
片岩 H103xW32xD22.5㎝
大英博物館(ロンドン)
ガンダーラの仏像の特徴は、
地元で産出する片岩(地下の温度や圧力いよって生じた変成岩の一種)を素材に、
右手は施無畏(せむい)印(畏怖を取り除く意味)、
左手は衣を掴み、
髪型はウェーブがかかって、頭頂部で束ねています。
インド聖者風の姿で、中央アジア王侯像風の正面像。
ローマ彫刻に見られる、彫りの深い顔貌 などです。
片足に動きを加えた支脚遊脚(コントラポスト)の姿勢や、きれいな衣褶線(いしゅうせん)での布の写実的表現は、ヘレニズム・ローマ美術の影響ですね。
こちらは
《菩薩立像》1~3世紀頃

片岩
H120㎝
ギメ東洋美術館(パリ)
《如来立像》2~3世紀頃

片岩
H111.2㎝
東京国立博物館
整った美しい顔立ちですね。
仏教の礼拝用の具像としてつくられるようになった仏像は、前期には石で、後期には塑像によって制作されるようになります。
やがて中国・朝鮮を経て、日本へ伝わるのは6世紀となります。
この他、ガンダーラ美術では、釈迦の生涯を物語る仏伝図を主要モチーフに、壁やストゥーパに施された浮彫などが知られます。

《梵天勧請図》 1世紀 スワート出土
ベルリン・国立インド美術館
「梵天勧請」とは、菩提樹の下で悟りを開いた釈迦が、はじめ人々への教えを躊躇するも、梵天など神々からの要請をうけ、すべてのものへの説法を決意する場面。
中央が釈迦如来坐像
左に合唱する梵天像
右に帝釈天像

《仏涅槃》浮彫 2-3世紀
H41㎝ ロリヤン・タンガイ出土
コルカタ・インド博物館
沙羅双樹の下、釈迦の涅槃の場面を表した浮彫。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kanishka_casket,_Asia,_G33_South_Asia.jpg
《カニシュカ舎利容器》 2-3世紀
銅箔で覆われた仏教遺物。
カニシカ王のストゥーパの地下に埋もれた小部屋から発見されたもので、中には、釈迦の3つの骨片が入っていたといわれています。
これらガンダーラ美術の影響力は、インド、中央アジア、中国と広範囲にわたり、それぞれの仏教美術に大きな影響を与えました。
◆参考文献
美術検定実行委員会編 『美術検定2級問題集-アートの知見を広げる-』 美術出版社、2019年
美術検定実行委員会編 『続 西洋・日本美術史の基本』 美術出版社、2018年
金子典正編 『アジアの芸術史 造形篇Ⅱ 朝鮮半島・西アジア・中央アジア・インド』 幻冬舎、2013年