マニエリスムの美術

エル・グレコ オルガス伯の埋葬
エル・グレコ《オルガス伯の埋葬》1586-88年 トレド・サント・トメ教会

マニエリスムの特徴
・16世紀、イタリアで展開した美術様式(後期ルネサンス)
・社会的にも宗教的にも不安定な時代
・不安感漂う緊張感のある作品
・「様式・手法」を意味する「マニエラ」が語源
・ねじれたポーズ
・極端な長身化
・冷たく鮮やかな色調
・表面のなめらかな仕上げ
・短縮法や遠近法や明暗の誇張
大胆な構図、非合理的空間表現
・寓意画・螺旋構図

主な作家
 ポントルモ(初期)孤独な不安感、非現実的色彩
 パルミジャニーノ(初期)極度に洗練された美の世界
 ジュリオ・ロマーノ(初期)マントヴァの宮廷で活躍
 ブロンツィーノ(中期)芸術的技巧と宮廷趣味の追求
 ヴァザーリ(中期)画家・建築家・美術史家、多才な芸術家    
 ロッソ・フィオレンティー(中期)フォンテーヌブロー派
 
名称不詳《ガブリエル・デストレとその妹》(中期)フォンテーヌブロー派
 アルチンボルド(中期)奇妙な寓意的肖像画、プラハで宮廷画家
 ティントレット(後期)神秘的な雰囲気、独創的
 ジャンボローニャ(後期)彫刻家
 エル・グレコ(後期)神秘主義的な宗教画

※フォンテーヌブロー派
16世紀中盤、フォンテーヌブロー宮の改装のため、フランス王フランソワ1世がイタリアから招聘した芸術家たち。また彼らの影響をうけて発展した宮廷美術の様式。古代神話や寓意を主題に、優雅で装飾的、冷ややかな官能性が特徴。名前の伝わらない画家も多い。
 
ルネサンス的な調和や均衡を崩し、誇張や変形を加えた独特の表現。

ポントルモ

ポントルモ
Sailko, CC BY 3.0 , via Wikimedia Commons

ヤコポ・ダ・ポントルモ
(本名 ヤコポ・カルッチ)
Jacopo da Pontormo
1494年5月24日-1557年1月2日
イタリア

ミケランジェロやデューラー、ボッティチェリなどの作品から影響を受ける
マニエリスムの先駆者
ブロンツィーノの師

ポントルモ 十字架降降下

《十字架降下》
1526-28年頃
サンタ・フェリチタ教会(フィレンツェ)

ポントルモ《カルミニャーノの訪問》

《カルミニャーノの訪問》
1528年 油彩・板
202×156㎝ サン・ミケーレとサン・フランチェスコ(カルミニャーノ)

鮮やか冷たい色使い、人物の表情やデフォルメされた体つき、浮遊感による不明確な位置関係など、不安をかきたてるような描写。
盛期ルネサンス美術を規範としながらも、それとは異なる独自の表現を模索しています。

パルミジャニーノ

パルミジャニーノ

パルミジャニーノ
Parmigianino
1503年1月11日-1540年8月24日

ラファエロの影響を受ける
パルマで活躍

パルミジャニーノ 首の長い聖母

《長い首の聖母》
1425-27年頃 油彩・板 
219x135㎝ ウフィツィ美術館(フィレンツ)

パルミジャニーノ 長い首の聖母
パルミジャニーノ 長い首の聖母

S字に曲がった首の聖母マリア、不自然な体つきのキリスト、いくつもの視線が交差しています。右下には哲学者? それぞれに寓意がありそうですが、明確な答えは不明のままです。

ジュリオ・ロマーノ

ジュリオ・ロマーノ 肖像画

ジュリオ・ロマーノ
Giulio Romano
1499年?-1546年11月1日
イタリア

画家・建築家
ラファエロの弟子
幻想的、官能的なマニエリスム芸術を展開

ジュリオ・ロマーノ《巨人の間の壁画》

《巨人の間の壁画》
1528-34
年 フレスコ画
66.5×50.5㎝ パラッツォ・デル・テ(マントヴァ/イタリア

ジュリオ・ロマーノ《巨人の間の壁画》

吾崩れ落ちる岩山や建物、渦巻く雲など、平衡感覚がおかしくなるような奇抜な絵です。

マニエリスム中期(1540~70年頃)

技巧を洗練させ寓意性が高まる。
ヨーロッパ各地の宮廷を中心に広まる。
貴族趣味に合わせた、より華やかで装飾的な展開。

ブロンツィーノ(ブロンズィーノ)

ブロンツィーノ

アーニョロ・ブロンズィーノ
Agnolo Bronzino
1503年11月17日-1572年11月23日

メディチ家のフィレンツェ公コジモ1世の宮廷画家として活躍

ブロンツィーノ《愛の寓意》

《愛の寓意》
1545年頃 油彩・板
146.1×116.2㎝
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

プロンツィーノ《エレオノーラ・ディ・トレドと息子ジョヴァンニ》

《エレオノーラ・ディ・トレドと息子ジョヴァンニ》
1545年頃 油彩・板
115×96㎝
ウフィツィ美術館(フィレンツェ)

作品についてはこちらを👇

ヴァザーリ

ヴァザーリ 自画像

ジョルジョ・ヴァザーリ
Giorgio Vasari
1511年7月30日-1574年6月27日
イタリア

画家・建築家・著述家
著書『美術家列伝』(1550年初版)

ウフィツィ美術館
Михаил Бернгардт, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Galeri.jpg

ウフィツィ美術館
(元フィレンツェ官庁舎)

This illustration was made by louis-garden.Please credit this : louis-gardenAn email to Louis-garden or a message here would be appreciated too.More pictures (not free) at My Photos Site, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:CorridorVasari.jpg

ヴァザーリの回廊
ウフィツィとパラッツォ・ピッティを結ぶ

ヴァザーリ《ウルカヌスの鍛冶場》

《ウルカヌスの鍛冶場》
1564年頃 油彩・銅板
38×28㎝ ウフィツィ美術館(フィレンツェ)

ヴァザーリ『美術家列伝』

『美術家列伝』
1568年 第2版表紙 

著書『美術家列伝』は、マチブーエから彼自身に至る約300年間に活躍した美術家を取り上げたもの。ミケランジェロやラファエロの「マニエラ(手法・様式)」を芸術の頂点としています。イタリア・ルネサンス美術研究の重要な資料となっています。

ロッソ・フィオレンティーノ

ロッソ・フィオレンティーノ

ロッソ・フィオレンティーノ
Rosso Fiorentino
(本名 ジョバンニ・バティスタ・ディ・ヤコポ)
1494年3月8日-1540年11月14日
イタリア

ポントルモと同じ工房で修業
フランソワ1世に招かれフランスへ

ロッソ・フィオレンティーノ 十字架降下

《十字架降下》
1521年 油彩・板
ヴォルテラ美術館

重量感のない謎めいた人物や、曖昧な空間表現です。

作者不詳

フォンテーヌブロー派の代表的な作品
portrait-gabrielle-d'estrées-and-duchess-of-villars,

《ガブリエル・デストレとその妹》
1594年頃 油彩・板
96×125㎝ ルーブル
美術館(パリ)

アルチンボルド

アルチンボルド 自画像

ジュゼッペ・アルチンボルド
Giuseppe Arcimboldo
1526年4月5日-1593年7月11日
イタリア

静物画のように緻密に描かれた果物、野菜、動植物などを寄せ集めた、珍奇な肖像画を描く。
プラハに招かれる

アルチンボルド《水》

「四大元素」《水》
1566年 油彩・板
66.5×50.5㎝ 
美術史美術館(ウィーン)

アルチンボルド《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》

「ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像」
1566年 油彩・板
68×56㎝ スコークロステル城
(スウェーデン)

詳しくはこちらを👇

マニエリスム後期(1570年以降)

奇想的な表現装飾性の追求。
カトリック改革により芸術に対する教会の統制が強まり、終焉に向かう。
明暗や遠近を強調した動きのある構成となっていく。
カラヴァッジョやカラッチの登場とともにバロックへと移行。

ティントレット

ティントレット 自画像

ティントレット

Tintoretto
1518年9月29日-1594年5月31日

ティツィアーノの色彩とミケランジェロの人体描写を目指す。
ヴェネツィア・ルネサンスの最後を飾る画家。

《最後の晩餐》
1592-94年 油彩・カンヴァス
サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会(ヴェネツィア)

キリストが裏切り者の存在を告げる場面。上部の明かりによる強い明暗や、斜めに配されたテーブルによる遠近感、天井には天使が舞い、世俗性神秘性の混じり合う、斬新な構図の《最後の晩餐》です。

ベルニーニ サンピエトロ広場

《奴隷を解放する聖マルコ》 
1548年 416x544㎝
アカデミア美術館(ヴェネツィア)

もう少し詳しくはこちらを👇

ジャンボローニャ

ジャンボローニャ 肖像

ジャンボローニャ
Giambologna
1529年-1608年8月13日

フランドル生まれ
マニエリスムの彫刻家
ローマで古代彫刻やミケランジェロを研究し、フィレンツェで活動

ジャンボローニャ サビニの女の略奪 

《サビニの女の略奪》
1581-1583年 
大理石 約 H410㎝
ランツィの回廊(シニョーリア広場/フィレンツェ)

どの角度から見ても、3人の人物が螺旋状に連なって見えます。
ミケランジェロの造形理念であるねじれた人体による感情の表現を受け継いでいます。
大理石の塊から彫り出された作品。

エル・グレコ

エル・グレコ

エル・グレコ
El Greco
本名 ドメニコス・テオトコプーロス
1541年-1614年4月7日
クレタ島出身

16世紀スペインの代表的なマニエリスト。独創的なスタイルを築きました。
エル・グレコ」は「ギリシア人」を意味するあだ名。
ヴェネチアとローマで修業後、スペインへ移り住みます。

エル・グレコ ラオコーン

《ラオコーン》
1610年-1614年 
油彩
142x193㎝ 
ナショナル・ギャラリー(ワシントン)

グレコが描いた唯一の神話画
蛇と格闘するラオコーン2人の息子です。

エル・グレコ 無原罪の御宿り

《無原罪の御宿り》 
1613年 
油彩・板
サンタ・クルス美術館(トレド)
☆10頭身

エル・グレコ オルガス伯の埋葬

《オルガス伯の埋葬》
1586-88年 
油彩・カンヴァス
487.5x360㎝ サント・トメ教会(トレド)

今日使われている「マンネリズム(マンネリ)」も、この「マニエラ」「マニエリスム」から派生した言葉です。日本では「新鮮さに欠ける、型にはまった状態」を指す言葉として使われていますね。

[参考図書]
改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2019
続 西洋・日本美術史の基本 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2018
増補新装 カラー版 西洋美術史 高階秀爾監修 株式会社美術出版社 2021
カラー版 1時間でわかる西洋美術史 (宝島社新書) 宮下規久朗著  宝島社 2018
366日の西洋美術 (366日の教養シリーズ) 瀧澤秀保監修 株式会社三才ブックス 2019
芸術教養シリーズ6 盛期ルネサンスから十九世紀末まで 西洋の芸術史 造形篇II 水野千依編 株式会社幻冬舎 2013

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