「フレスコ」の語源は、イタリア語で「新鮮な」という意味です。
壁に漆喰を塗り、それが乾くまでの間に、水で溶いた顔料で描く技法です。
乾燥していくうちに、顔料が漆喰にしみ込んで、壁面と一体となり、しっかりとした画面ができあがります。いったん乾くと水に漬けても滲むことなく、抜群の耐久性を示します。
しかし作業を素早く行う必要があり、書き直しもできないことから、綿密な計画と熟練した技術が必要とされています。
とくに中世からルネサンスのイタリアで、多くの教会や邸宅の壁面がフレスコで飾られました。
著名なフレスコ画👇

フラ・アンジェリコ
《受胎告知》
1438-1450年頃
サン・マルコ美術館(フィレンツェ)

ラファエロ
《パルナッスス山》
《アテナイの学堂》
1509年 ヴァチカン宮殿

ミケランジェロ
システィーナ礼拝堂天井画

《アダムの創造》
1508-12年
古いところでは👇

雄牛と2人の女性が描かれたフレスコ画
紀元前2世紀頃
クレタ島クノッソス宮殿

ポンペイの壁画 秘儀荘
紀元前1世紀頃
耐久性は数千年だと!
顔料が閉じ込められているので、美しい色を保ち続けるんですね。
3級 過去問/Q.288

ヤン・ファン・エイク
《アルノルフィーニ夫妻の肖像》
1434年 ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
グレーズまたはグレージングと呼ばれる油彩技法の一つです。
絵具を多めの画用油で溶いて、薄い層で塗り重ねる技法で、光沢と深みを出します。
15世紀後半の初期、フランドル派の画家たちによって確立されました。
ファン・エイク兄弟は、油絵の技術を確立させたと言われています。。




鏡の中に移りこんだ赤い服か、ヤン・ファン・エイク本人と言われています

陶器に釉薬をかけることをグレースといい、革の表面を平たくして艶を出す仕上げ方法もグレージングといいます。
他の答えも、一応確認を!
②の「広い面を平滑に塗るのが難しく、細い線で面を埋めていくように描いた」は、ハッチングという視覚効果を利用した技法です。
一定の面を平行な線で埋める技法で、古くはテンペラ画にも用いられました。(Q.292で取り上げます)
③の「絵画を厚塗りしたり削ったりと、画家が感覚的に描写することが可能になった」は、ペインティングナイフによる表現を指します。
絵具を画面上に塗り込む、厚く塗り上げる、エッジを立てるなど、さまざまな効果を生みます。

ペインティングナイフ
④の「絵具の乾燥が早いため、一日ごとに描く範囲を区切らなければならなかった」は、フレスコの技法ですね。
3級 過去問/Q.289

レオナルド・ダ・ヴィンチ
《モナ・リザ》
1503-06年 油彩・板
ルーブル美術館(パリ)
「スフマート」(sfumato)は、イタリア語で「煙」を意味する「fumo」から派生した名称です。
絵具を塗り重ねながら周囲となじませ、色の境目がわからないようにぼかす技法で、乾燥が遅いという油絵具の特性を利用しています。
大気の作用でかすむ遠くの風景を描いたり、人物や物に陰影をつけたりする際に用いられます。非常に繊細な陰影が、深みやボリュームを出します。
とくにこの《モナ・リザ》には、筆の跡を残さないほどの見事なぼかしが施されています。

顔の輪郭や、目のくぼみの部分にもスフマートが用いられています。みごとに 自然な陰影ですね。
15世紀頃までは、人物の輪郭線は明確に描かれていました。しかしレオナルドは「自然界に輪郭線はない」として描きませんでした。
3級 過去問/Q.290

ゴッホ 《星月夜》 部分
油絵具を厚く塗ったり、盛り上げたりする技法を「インパスト」と言います。
イタリア語の impastare(インパスターレ)、捏ねる・混ぜる・練る などの意味からきてきます。
初期の油絵は、暗い部分に薄く溶いた絵具を塗り重ねていましたが、17世紀頃には、ハイライト部分に明るい色の絵具を厚く塗る手法が普及します。
19世紀に粘度の高いチューブ入り絵具が登場すると、絵具を盛り上げたその形自体も、表現の一部とする作品が現れるようになりました。
上の画像は、「月」の部分のアップです👇

ゴッホ 《星月夜》
1889年 ニューヨーク近代美術館

ゴッホ
《歩き始め(ミレーを模して)》
1890年 メトロポリタン美術館

3級 過去問/Q.291

ジョット《正義》
スクロヴィーニ礼拝堂
「グリザイユ」とは、単色(主に灰白色)の濃淡で、陰影を描写する絵画技法です。硬質で落ち着きのある効果を生み出します。モノクロの絵の総称ですね。
中世末期からルネサンスでは、この技法を使って大理石の彫像を模倣しました。壁画や祭壇画の扉部分には、この技法で描かれたものが多く見られます。
トロンプ=ルイユ(だまし絵)の手段の一つとして用いられることもあります。
上のジョットの絵は、スクロヴィーニ礼拝堂のフレスコ画の下段部分です。

ジョット《不信仰》
スクロヴィーニ礼拝堂

《移り気》

下段部分

下段部分

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7c/Padova_-_Cappella_degli_Scrovegni_-_2024-09-27_23-06-39_004.jpg

ファン・エイク兄弟
《ヘントの祭壇画》
1432年 油彩・板
聖バーフ大聖堂(ベルギー)

洗礼者ヨハネ

使徒ヨハネ
石像が並んでいるようですね。
3級 過去問/Q.292

レオナルド・ダ・ヴィンチ
《レダの頭部》 1505-07年
「ハッチング」は、平行線を繰り返すことによって、線だけで立体感や明暗を表現することができる技法です。
素描の他、版画などでも使用されます。

デューラー 《ヴェロニカ》
1513年

ハッチング同士を交差させる技法は「クロス・ハッチング」と呼ばれ、曲面の表現に適しています。

ヘンドリック・ホルツィウス
《ホルツィウスの右手》
1588年 テイラーズ美術館(オランダ)

ミケランジェロ
《サテュロスの頭》
ルーブル美術館(パリ)
3級 過去問/Q.293

ハンス・ホルバイン(子)
《大使たち》
1533年 油彩・板
207×209.5㎝ ナショナル・ギャラリー(ロンドン
「アナモルフォーシス」(Ana-morphosis)は、ギリシア語で再構成を意味します。
何が描かれているかわからないほど、対象を極端にゆがめたり、引き伸ばしたりして描く技法です。
ホルバインのこの作品《大使たち》は、アナモルフォーシスの技法をつかった有名な作品です。斜め横から見たとき、髑髏(どくろ)の正常な形が見えます。


他に、円筒形の鏡などの道具を使って初めて、図柄がわかるものもあります。(17世紀/バロック時代~)


これらは遠近法の応用で、厳密な計画性を必要とします。
日本では江戸時代に、刀の鞘を投影用の円筒として利用したものが流行し、「鞘絵(さやえ)」と呼ばれました。
【参考図書】
知る、わかる、みえる 美術検定3級問題[基本編 basic] 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2021
改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2019
続 西洋・日本美術史の基本 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2018
絵でわかるアートのコトバ 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2011