美術検定3級 過去問/Q.287~293(西洋絵画の技法)

壁画を描くのに適した技法は次のうちどれですか?
① パステル
② テンペラ
③ フレスコ
④ 油彩
出典:美術検定実行委員会・編『美術検定3級問題集-知る、わかる、みえる』 (株)美術出版社 2021  p.142
答え ③ フレスコ

フレスコ」の語源は、イタリア語で「新鮮な」という意味です。

壁に漆喰を塗り、それが乾くまでの間に、水で溶いた顔料で描く技法です。
乾燥していくうちに、顔料が漆喰にしみ込んで、壁面と一体となり、しっかりとした画面ができあがります。いったん乾くと水に漬けても滲むことなく、抜群の耐久性を示します。

しかし作業を素早く行う必要があり、書き直しもできないことから、綿密な計画と熟練した技術が必要とされています。

とくに中世からルネサンスのイタリアで、多くの教会や邸宅の壁面がフレスコで飾られました。

著名なフレスコ画👇

フラ・アンジェリコ《受胎告知》

フラ・アンジェリコ
《受胎告知》
1438-1450年頃 
サン・マルコ美術館(フィレンツェ)

ラファエロ ヴァチカン宮殿 フレスコ画

ラファエロ
《パルナッスス山》
《アテナイの学堂》
1509年 ヴァチカン宮殿

ミケランジェロ 天井画 システィーナ礼拝堂

ミケランジェロ
システィーナ礼拝堂天井画

michaelangelo-the-creation-of-adam

《アダムの創造》
1508-12年

古いところでは👇

クレタ島クノッソス宮殿 フレスコ画

雄牛と2人の女性が描かれたフレスコ画
紀元前2世紀頃
クレタ島クノッソス宮殿

ポンペイの壁画 秘儀荘

ポンペイの壁画 秘儀荘
紀元前1世紀頃

耐久性は数千年だと!
顔料が閉じ込められているので、美しい色を保ち続けるんですね。

3級 過去問/Q.288

下図に用いられた絵画技法はどれでしょう?
① 薄く溶いた絵具を何層にも塗り重ねることによって、透明感のある鮮やかな色彩を作り出している
② 広い面を平滑に塗るのが難しく、細い線で面を埋めていくように描いた
③ 絵画を厚塗りしたり削ったりと、画家が感覚的に描写することが可能になった
④ 絵具の乾燥が早いため、一日ごとに描く範囲を区切らなければならなかった
出典:美術検定実行委員会・編『美術検定3級問題集-知る、わかる、みえる』 (株)美術出版社 2021  p.142
ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻の肖像》

ヤン・ファン・エイク
《アルノルフィーニ夫妻の肖像》
1434年 ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

答え ① 薄く溶いた絵具を何層にも塗り重ねることによって、透明感のある鮮やかな色彩を作り出している

グレーズまたはグレージングと呼ばれる油彩技法の一つです。
絵具を多めの画用油で溶いて、薄い層で塗り重ねる技法で、光沢深みを出します。

15世紀後半の初期、フランドル派の画家たちによって確立されました。
ファン・エイク兄弟は、油絵の技術を確立させたと言われています。

ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻の肖像》詳細 手
ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻の肖像》
ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻の肖像》サンダル
ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻の肖像》鏡

鏡の中に移りこんだ赤い服か、ヤン・ファン・エイク本人と言われています

ヤン・ファン・エイク 自画像
ヤン・ファン・エイク 自画像

陶器に釉薬をかけることをグレースといい、革の表面を平たくして艶を出す仕上げ方法もグレージングといいます。

他の答えも、一応確認を!

②の「広い面を平滑に塗るのが難しく、細い線で面を埋めていくように描いた」は、ハッチングという視覚効果を利用した技法です。
一定の面を平行な線で埋める技法で、古くはテンペラ画にも用いられました。(Q.292で取り上げます)

③の「絵画を厚塗りしたり削ったりと、画家が感覚的に描写することが可能になった」は、ペインティングナイフによる表現を指します。
絵具を画面上に塗り込む、厚く塗り上げる、エッジを立てるなど、さまざまな効果を生みます。

ペインティングナイフ

ペインティングナイフ

④の「絵具の乾燥が早いため、一日ごとに描く範囲を区切らなければならなかった」は、フレスコの技法ですね。

3級 過去問/Q.289

下図の人物の口元のように、対象の色や輪郭をぼかして、煙か霧がかかったように描く技法を何と呼びますか?
① グリザイユ
② インパスト
③ スフマート
④ グラシ
出典:美術検定実行委員会・編『美術検定3級問題集-知る、わかる、みえる』 (株)美術出版社 2021  p.144
レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》

レオナルド・ダ・ヴィンチ
《モナ・リザ》
1503-06年 油彩・板
ルーブル美術館(パリ)

答え ③ スフマート

スフマート」(sfumato)は、イタリア語で「」を意味する「fumo」から派生した名称です。

絵具を塗り重ねながら周囲となじませ、色の境目がわからないようにぼかす技法で、乾燥が遅いという油絵具の特性を利用しています。

大気の作用でかすむ遠くの風景を描いたり、人物や物に陰影をつけたりする際に用いられます。非常に繊細な陰影が、深みやボリュームを出します。

とくにこの《モナ・リザ》には、筆の跡を残さないほどの見事なぼかしが施されています。

leonardo-da-vinci-mona-lisa-detail

顔の輪郭や、目のくぼみの部分にもスフマートが用いられています。みごとに 自然な陰影ですね。

15世紀頃までは、人物の輪郭線は明確に描かれていました。しかしレオナルドは「自然界に輪郭線はない」として描きませんでした。

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3級 過去問/Q.290

油絵具を厚く塗ったり、盛り上げたりする技法をなんと呼びますか?
① インパスト
② グレーズ
③ スカンブリング
④ ドライブラシ
出典:美術検定実行委員会・編『美術検定3級問題集-知る、わかる、みえる』 (株)美術出版社 2021  p.142
ゴッホ《星月夜》詳細

ゴッホ 《星月夜》  部分

答え ① インパスト

油絵具を厚く塗ったり、盛り上げたりする技法を「インパスト」と言います。
イタリア語の impastare(インパスターレ)、捏ねる・混ぜる・練る などの意味からきてきます。

初期の油絵は、暗い部分に薄く溶いた絵具を塗り重ねていましたが、17世紀頃には、ハイライト部分に明るい色の絵具を厚く塗る手法が普及します。

19世紀に粘度の高いチューブ入り絵具が登場すると、絵具を盛り上げたその形自体も、表現の一部とする作品が現れるようになりました。

上の画像は、「月」の部分のアップです👇

ゴッホ《星月夜》

ゴッホ 《星月夜》 
1889年 ニューヨーク近代美術館

ゴッホ

ゴッホ
《歩き始め(ミレーを模して)》
1890年 メトロポリタン美術館

3級 過去問/Q.291

灰色の色調だけを使う絵画技法で、硬質で落ち着きのある効果を生み出すものをなんと呼ぶでしょうか?
① スフマート
② キアロスクーロ
③ グラデーション
④ グリザイユ
出典:美術検定実行委員会・編『美術検定3級問題集-知る、わかる、みえる』 (株)美術出版社 2021  p.142
ジョット《正義》スクロヴィーニ礼

ジョット《正義》
スクロヴィーニ礼拝堂

答え ④ グリザイユ

グリザイユ」とは、単色(主に灰白色)の濃淡で、陰影を描写する絵画技法です。硬質で落ち着きのある効果を生み出します。モノクロの絵の総称ですね。

中世末期からルネサンスでは、この技法を使って大理石の彫像を模倣しました。壁画や祭壇画の扉部分には、この技法で描かれたものが多く見られます。

トロンプ=ルイユ(だまし絵)の手段の一つとして用いられることもあります。

上のジョットの絵は、スクロヴィーニ礼拝堂のフレスコ画の下段部分です。

ジョット《不貞》スクロヴィーニ礼拝堂

ジョット《不信仰》
スクロヴィーニ礼拝堂

《移り気》

スクロヴェーニ礼拝堂 ジョット
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Scrovegni.JPG

下段部分

スクロヴェーニ礼拝堂(イタリア) ジョット フレスコ画

下段部分

ジョット スクロヴェーニ礼拝堂
Viaggiamocela, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7c/Padova_-_Cappella_degli_Scrovegni_-_2024-09-27_23-06-39_004.jpg
ファン・エイク兄弟の《ヘントの祭壇画》の外側などにも見られます。
ヘントの祭壇画

ファン・エイク兄弟
《ヘントの祭壇画》
1432年 油彩・板
聖バーフ大聖堂(ベルギー)

ヘントの祭壇画 洗礼者ヨハネ

洗礼者ヨハネ

ヘントの祭壇画 使徒ヨハネ

使徒ヨハネ

石像が並んでいるようですね。

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3級 過去問/Q.292

多数の平行線によって立体感や陰影を表現する技法を何と呼びますか?
① エングレーヴィング
② ハッチング
③ マスキング
④ スカンブリング
出典:美術検定実行委員会・編『美術検定3級問題集-知る、わかる、みえる』 (株)美術出版社 2021  p.144
ダ・ヴィンチ ハッチング

レオナルド・ダ・ヴィンチ
《レダの頭部》 1505-07年

答え ② ハッチング

ハッチング」は、平行線を繰り返すことによって、線だけで立体感や明暗を表現することができる技法です。
素描の他、版画などでも使用されます。

デューラー ハッチング

デューラー 《ヴェロニカ》
1513年

デューラー ハッチング詳細

ハッチング同士を交差させる技法は「クロス・ハッチング」と呼ばれ、曲面の表現に適しています。

ヘンドリック・ホルツィウス《ホルツィウスの右手》

ヘンドリック・ホルツィウス
《ホルツィウスの右手》
1588年 テイラーズ美術館(オランダ)

ミケランジェロ《サテュロスの頭》クロスハッチング

ミケランジェロ
《サテュロスの頭》
ルーブル美術館(パリ)

3級 過去問/Q.293

次の各技法のうち、下図に用いられたものはどれですか?
① デカルコマニー
② フロッタージュ
③ アナモルフォーシス
④ ドリッピング
出典:美術検定実行委員会・編『美術検定3級問題集-知る、わかる、みえる』 (株)美術出版社 2021  p.144
ハンス・ホルバイン《大使たち》

ハンス・ホルバイン(子)
《大使たち》
1533年 油彩・板
207×209.5㎝ ナショナル・ギャラリー(ロンドン

答え ③ アナモルフォーシス

アナモルフォーシス」(Ana-morphosis)は、ギリシア語で再構成を意味します。

何が描かれているかわからないほど、対象を極端にゆがめたり、引き伸ばしたりして描く技法です。

ホルバインのこの作品《大使たち》は、アナモルフォーシスの技法をつかった有名な作品です。斜め横から見たとき、髑髏(どくろ)の正常な形が見えます。

ホルバイン《大使たち》アナモルフォーシス
ホルバイン《大使たち》髑髏

他に、円筒形の鏡などの道具を使って初めて、図柄がわかるものもあります。(17世紀/バロック時代~)

アナモルフォーシス
出典 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Anamorphosis_chair.jpg
アナモルフォーシス

これらは遠近法の応用で、厳密な計画性を必要とします。

日本では江戸時代に、刀の鞘を投影用の円筒として利用したものが流行し、「鞘絵(さやえ)」と呼ばれました。

【参考図書】
知る、わかる、みえる 美術検定3級問題[基本編 basic] 美術検定実行委員会編  株式会社美術出版社  2021
改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト 美術検定実行委員会編  株式会社美術出版社  2019
続 西洋・日本美術史の基本 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2018
絵でわかるアートのコトバ 美術検定実行委員会編 株式会社美術出版社 2011 

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