バロック美術(フランス)

ベルサイユ宮殿 鏡の間 ル・ブラン
シャルル・ル・ブラン ベルサイユ宮殿鏡の間 1678-86

絶対王政を推し進めたフランスは、カトリック国とはいえ、イタリアやフランドルのバロック美術とは異なり、理性的で知性と秩序を重んじる「古典主義」的な美術が発展しました。

イタリアのカラヴァッジョ様式は、全ヨーロッパへ大きな影響を与えていましたが、フランスでは、宮廷的雰囲気が強かったパリへの直接の波及は少なく、その影響は地方にとどまっています。

1648年、パリに設立された王立アカデミーでは、イタリア・ルネサンスの芸術観を引き継ぎます。古代美術、ラファエロ、プッサンを理想として、精神性を重視した体系的な教育が行われました。(後に1670年代頃からアカデミー内で、精神性重視の素描と、感覚重視の色彩のどちらが重要かを論じた「色彩論争」がおこり、色彩派が勝利しています。)
アカデミーでは、画家や彫刻家は職人ではなく、優れた創造者と位置付けられました。

太陽王・ルイ14世の治世のもとで繁栄したフランス。ヴェルサイユ宮殿は、まさにその象徴。やがてイタリアにかわりヨーロッパ美術の中心となっていくことになります。

特徴 古典主義寄り・キリスト教・ギリシア神話的主題・風景画・風俗画

プッサン 《アルカディアの牧人たち》

絵画は哲学的であるべきという持論から、教養のある人々のみが読み解ける知的で秩序を重んじた、古典主義的な絵画を確立します。
画中のラテン語はその象徴で、アカデミーにおいて、古代やラファエロと並んで、芸術の基準とされた作品です。

ニコラ・プッサン アルカディアの牧人たち

1638-40年頃 
油彩・キャンヴァス 85x121㎝
ルーブル美術館蔵(パリ)

Sailko, CC BY 3.0 , via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Nicolas_poussin,_i_pastori_in_arcadia_(et_in_arcadia_ego),_1638-40_ca._02.jpg

石棺に刻まれている文字は、
「ET IN ARCADIA EGO」(我アルカディアにもあり)

「アルカディア」とは、古代ギリシアにあったとされる理想郷。
我とはのことで、理想郷にも死は訪れるという、幸福の儚さと死への思いを促すものという説と、
この文字を並べ替えると「I TEGO ARCANA DEI」(立ち去れ私は神の秘密を隠した)と、別の意味の文章が成立します。
他の諸要素からも、キリストの子孫に関するメッセージが背景の山に隠されているのではないかという説もあるようです。

ニコラ・プッサン

ニコラ・プッサン
Nicolas Poussin

1594年6月15日~1665年11月19日
フランス

バロック全盛期に活躍。激しい感情や、劇的な表現をおさえて、厳格な古典主義様式で、古代ローマの美術を理想とする優雅さを追求。生涯にわたり、聖書や神話など物語画を描いています。
フランス最大の画家として「絵画の父」と称されます。

ラ・トゥール《大工聖ヨセフ》

ろうそくの光に照らし出された宗教画で知られるラ・トゥールの代表作。夜の作業場で働く義父の聖ヨセフに、何か語りかけている少年キリストが描かれています。
カラヴァッジョの影響による、光の効果を使った明暗対比の強調が見られますが、ラ・トゥールはそこに、劇的な生々しさではなく、静謐で秩序ある神秘的な世界を描きました。

ラ・トゥール 大工聖ヨセフ

1640年頃
油彩・キャンヴァス
130x100㎝
ルーブル美術館(パリ)

ディエゴ・ベラスケス

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
Georges de La Tour

1593年3月19日-1652年1月30日
フランス

国王ルイ13世付きの宮廷画家。「夜の画家」と呼ばれます。

その他の代表作

ラ・トゥール いかさま師

《いかさま師》

1620年頃
油彩・キャンヴァス
キンベル美術館(アメリカ)


クロードロラン《シバ女王の乗船(海港 シバの女王の上陸)》

左右に古代ローマ風の建物がそびえ、開かれた中央は、太陽の光を受けて輝く海面。典型的な理想的風景画の構図です。
自然の光と、大気・空の表現を追求。そのかすみがかったような大気の様子や、叙情性あふれる風景表現は、後にターナーコンスタブルらイギリスの風景画に、大きな影響を与えています。

クロード・ロラン シバ女王の乗船

1648年
油彩・キャンヴァス 149.1x196.7㎝
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

クロード・ロラン
Claude Lorrain

1600年頃-1682年11月23日
フランス

ロレーヌ地方の出身で「ロラン」と呼ばれます。生涯の大半はローマで過ごし、風景画を描き続けました。

その他の代表作

クロード・ロラン アイネイアスのいるデロス島の海辺

《アイネイアスのいるデロス島の海辺》
1672年 油彩・キャンヴァス
99.6x134.3㎝
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

シャルル・ル・ブラン《アルベラの戦い(アレクサンドロス大王伝》

画面いっぱいの群衆の中、3か所にスポットライトが当たっています。中心となるモチーフの周りに構図を組み立てる手法や、人物の的確な感情表現など、ル・ブランの作品は、アカデミーでの優れた具体例となりました。

シャルル・ル・ブラン アルベラの戦い

1669年頃
油彩・キャンヴァス
ルーブル美術館(パリ)

シャルル・ル・ブラン

シャルル・ル・ブラン

Charles Le Brun

1619年2月24日-1690年2月22日
フランス

ルイ14世の首席画家として、ヴェルサイユ宮殿、ルーブル宮殿の内装を担当。王立絵画彫刻アカデミーを設立・運営。17世紀後半の美術界を牽引しました。

その他の代表作

ベルサイユ宮殿 鏡の間 天井画 ル・ブラン
Dennis Jarvis from Halifax, Canada, CC BY-SA 2.0 , via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:France-000369_-_Hall_of_Mirrors_Ceiling_(14828645935).jpg

ベルサイユ宮殿 鏡の間 
1678年~1686年 
ル・ブランによる内部装飾

天井画はルイ14世の武勲が描かれた大物語画。
41のシャンデリアと大きな燭台に灯された数百の蝋燭は、夜に鏡と窓に反射してまばゆい空間をつくりました。

ル・ブラン ベルサイユ宮殿 鏡の間 シャンデリア
Jacques76250, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Versailles_Galerie_des_glaces.jpg

【参考図書】
横山勝彦+半田滋男監修『西洋・日本美術の基本』美術出版社 2019年改
「美術検定」実行委員会編『続 西洋・日本美術史の基本』美術出版社 2016
宮下規久朗著『1時間でわかる西洋美術史』宝島社 2018年
瀧澤秀保監修『366日の西洋美術』株式会社三才ブックス 2019年
水野千依り編『盛期ルネサンスから十九世紀末まで』株式会社幻冬舎 2013年